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青森地方裁判所 昭和43年(モ)103号 決定 1968年3月18日

申立人 藤巻武義

右訴訟代理人弁護士 中村慶七

相手方 桜庭鉄男

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

一、本件申立の趣旨は、「相手方の申立人に対する青森簡易裁判所昭和四二年(ロ)第三八七号仮執行宣言付支払命令正本に基づいて別紙目録記載の物件に対してなされた強制執行は、本案(再審)事件の判決の確定に至るまでこれを停止する。」との裁判を求めるにあり、その理由とするところは、つぎのとおりである。

(一)  申立人は、申立外佐藤千年男に対し、昭和四二年三月ころ、左記の約束手形三通を振出交付した。

(1)  金額 金三〇万円

支払期日、支払地、支払場所、受取人、振出日、振出地はいずれも白地

(2)  金額 金二〇万円

支払期日、支払地、支払場所、受取人、振出日、振出地はいずれも白地

(3)  金額 金二〇万円

支払期日、支払地、支払場所、受取人、振出日、振出地はいずれも白地

(二)  申立人が申立外佐藤千年男に対し右手形三通を振出交付したのは、同手形の割引依頼のためであったが、同手形の割引が不能となったので、申立人は、同年同月ころ、右佐藤との間において同手形の割引委託契約を合意解除し、右(2)、(3)の各手形の返還を受けたが、右(1)の手形についてはこれを紛失したとの理由で返還を受けられなかった。そのころ、相手方から右(1)の手形の振出の有無について問い合せがなされたので、申立人は、相手方に対し、右(1)の手形は紛失したもので無効である旨を伝えた。

(三)  しかるに、相手方は、右(1)の手形を所持しているのを利用して、昭和四二年六月七日、青森簡易裁判所に対し右(1)の手形の手形金の支払いを目的とする支払命令の申立をし、これが支払命令の発布を受け(同裁判所昭和四二年(ロ)第三八七号事件)、同月二八日右支払命令に仮執行の宣言を得、その後右仮執行宣言付支払命令は確定した。

(四)  しかしながら、右(1)の手形にはつぎのような無効原因が存するから、相手方は手形上の権利を取得しない。

(1)  相手方は、同手形紛失の事実を知っている悪意の取得者である。

(2)  同手形には、受取人、振出地等の記載がないから、手形要件を欠く。

(3)  受取人が同手形に裏書していないから、裏書の連続を欠く。

(4)  相手方を被裏書人とする同手形の裏書は、支払期日である昭和四二年四月二二日より後である同年同月二四日になされたものであるから、右(1)の事由とあいまって指名債権譲渡の効力しかない。

(五)  しかるに、相手方は、右仮執行宣言付支払命令に基づき、青森地方裁判所執行官に強制執行を委任し、同執行官が昭和四二年七月二一日申立人所有の別紙目録記載の物件を差押え、これが競売期日は昭和四三年三月一八日と指定された。

(六)  そこで、申立人は、確定した右仮執行宣言付支払命令につき再審の訴を提起すべく準備中であるが、前記物件を競売されては回復することができない損害を被むるので、右強制執行の停止を求める。

二、当裁判所の判断は、つぎのとおりである。

本件申立は、青森簡易裁判所昭和四二年(ロ)第三八七号仮執行宣言付支払命令に対する再審に伴なう強制執行の停止を求めるものであることは、申立人の主張自体から明白である。

ところで、再審申立に伴ない強制執行の停止をなし得る裁判所は再審裁判所に限られるところ(民事訴訟法第五〇〇条第一項参照)、同法第四二二条第一項によれば、再審は不服の申立ある判決をした裁判所の専属管轄に属するから、仮執行宣言付支払命令に対する再審の訴は、請求の目的物の価額を問わず、その命令を発した簡易裁判所の専属管轄であると解するのが相当である。

してみると、前記仮執行宣言付支払命令に対する再審裁判所は、当裁判所でなくて青森簡易裁判所であるから、当裁判所は、前記仮執行宣言付支払命令に対する再審の申立に伴なう強制執行の停止を命ずる権限を有しないものというべきである。

のみならず、再審申立に伴なう強制執行の停止を命ずるためには、少くとも再審の訴が提起されていなければならないところ(同法第五〇〇条第一項参照)、本件については当裁判所に再審の訴は提起されていなく、また、書記官作成の聴取書によると、前記仮執行宣言付支払命令に対する再審裁判所たる青森簡易裁判所にも未だ再審の訴が提起されていないことが認められるから、この点からしても本件申立は不適法である。

以上のとおりであって、本件強制執行停止の申立は、その余の点につき判断するまでもなく不適法であるから、これを却下することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 辻忠雄)

<以下省略>

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